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特別取材

生産者インタビュー

「畳のある暮らしで自然との共生を取り戻す」
富山県 北島畳店

フローリング全盛の住宅事情で、和室のない住宅が半数との調査結果も出ています。それは、住宅のデザインや生活スタイルの変化に起因していると考えられます。しかし、和室を設置したいという意向を持つ人が70%に達しているとの報告もあり、日本人の心、文化、伝統というものも確かに生きていることを感じさせます。

こうした和室事情の中、畳を生業として3代を継承する富山県の北島畳店の二代目北島博之さん、三代目宏治さんに畳の魅力、これからの展望を伺いました。

 

 

 

北島畳店の歴史

3代続く畳店が伝えたいこと

博之さん

初代が昭和36年に創業しました。当時は、丁稚奉公という形で修行をして、問屋としてスタートしました。しかし、問屋では技術が身につかないため、畳店を開業。以来、64年3代に渡り畳店を営んでいます。ちなみに畳店として64年はまだ若いんです。畳の歴史は1,000年以上ですし、江戸時代から続く畳店はたくさんありますから。

 

早さより、長く使える価値を

しかし、和室が減り辞めていくお店もたくさんある中で、こうして続けてこられたのは、ありがたいことです。お客様の要望に応えることは、単に畳を作る、張り替えるだけではないんです。それぞれのお宅、お部屋によって畳の大きさも違いますし、場合によっては形も違います。今は色も様々ありますから、一つ一つ丁寧に要望に応えようと心がけています。

 

 

宏治さん

今の時代、早い、安い、便利というコスパやタイパが重視されます。しかし、良い畳の方が結果として、長持ちするんです。長い目で見た時にどちらが得なのかをしっかり説明することがお客様のためでもあり、納得してもらえるように努めています。

 

畳の魅力

博之さん

畳の原料となるものは、い草です。これは、約80%が外国産(主に中国産)、国産は約20%でその95%以上が熊本県八千代市産です。国産と外国産の違いは様々あるのですが、外国産は農薬に化学肥料を使っている場合がほとんどです。国産は有機肥料なので、肌に触れる畳は自然の肥料で育てたものの方が人にも優しいんです。

また、い草は一本一本が長いほど良質とされ、伸ばしすぎると先の方から枯れる「先枯れ」という現象が起きてしまい、ちょうどいい長さ、先枯れしないもっとも長い状態が最高級のい草となります。

国産い草(主に熊本県産)は十分に成熟してから収穫し、伝統的な『泥染め』乾燥で中心部の密度が高く、耐久性が中国産の約1.5倍長持ちします。一本一本職人選別で色ムラが少なく、清々しい天然の香りが持続。一方、中国産は収穫が約1ヶ月早く高温乾燥のため密度が低く、ささくれが出やすく香りが早く薄れますが価格は手頃です。

そうしたことから、国産は値段が上がるのですが、とても長持ちするので結果としてコスパになることをお客様に丁寧に説明しています。

 

劣化ではなく、経年美化

宏治さん

使い込むほどに、緑がかった畳はやがて茶色がかってきます。一般的には劣化と捉えがちです。しかし、良品の畳は、使い込んでいくほどにその色合いもムラが少なく、逆に「経年美化」と言えます。

また、い草を使った畳は、空気清浄、保湿・断熱性、抗菌効果などがあると言われます。さらにリラックス効果もあり、人工物の中での暮らしに癒しを与えてくれる空間としての役割は、現代となればなおさら大きいのではないかと思います。そして、年数が経過しても畳の良さはほとんど変わることがありません。

 

博之さん

ただ、畳も生き物です。手入れはしてあげてほしいです。昔の日本家屋は、良くも悪くも隙間風が吹いていましたが、今の住宅は気密性が高くなっています。住み心地は良くなった半面、空気の循環が少なくなりました。畳が湿気を吸い取っても放出できないとカビなどの発生原因となります。天気の良い日は窓を開けて、風を通してあげることでカビの発生を抑えることができるでしょう。また、畳の上にじゅうたんやカーペットを敷きっぱなしにすると、畳も呼吸しているので苦しくなります。カビやダニの発生原因にもなりやすいのでお勧めできませんね。

 

宏治さん

こうしてみてみると、畳ってやっぱり生き物なんですよ。もしカビが発生するようなら、部屋は湿気が多過ぎるという信号にもなりますし、乾燥しすぎると枯れ葉がパリパリになるように、畳もささくれてしまいます。畳に良い環境は、人の生活にもよい環境と言えるので、生活環境のバロメーターにもなるんです。

 

 

今後の展望

宏治さん

フローリングの住宅が多くなり、畳の需要が減ってきているのは確かで、畳文化が途絶えないか、家業として続けていけるのかという不安は付きまといます。しかし、じっとしてても何も始まりませんし、個人的には細々でもできることをしていこうということですかね。現在、インスタグラムで施工事例などを発信中。若い世代の方にも『畳のある暮らし』の魅力を伝えていきたいです。

私は、父が営むこの畳店に勤めて約10年余りが経ちます。学生時代は、畳や和室住居を学べる学校に入りました。その学校は京都にあるのですが、京都の畳店に住み込み働きながら、学校へ通わなければならない校風でした。昔で言う丁稚奉公みたいな感じで、見習いとして生きた実習とでも言えばいいのでしょうか。学校での学びと実際に職業としての学びの両面から知識と技術を習得できたことは貴重でした。父も持っている国家資格「一級畳製作技能士」を取ることができました。畳職人が少ないということは否定できませんが、若い世代では富山市では私だけなんです。卒業後、父の店で共にはたらき、技能を磨けなければこの技能を取得することはできませんでしたが、京都での学びもまた、大きな基礎となっていますね。

 

博之さん

この「一級畳製作技能士」は、手作業の畳製作の技術が必要となります。現在は、機械で畳は製作可能ですが、必ずしも同じ形ではありませんし、特殊な形の依頼には応えられません。そういう面では、販路が広がること以上に、お客様のニーズにも応えられる喜びを得られ、やりがいにもつながっています。

 

ご神座と言って、神様を祀るために使用した畳。また過去には天皇陛下にも献上されました。(下から八重畳、りゅうびん、しおとね)

最近では、い草を使った畳だけでなく、和紙を加工したものや、樹脂を使ったものなども出回っています。これらは、色あいやモダン和風感が出しやすく、これからの時代や若い世代が気に入りやすい工夫も進んでいます。耐水性や耐久性が高いため、樹脂系畳は小さなお子さんがいる家庭などには喜ばれています。

 

 

い草とともに生きる日本の知恵

宏治さん

様々な素材の畳が扱われるようになりましたが、やはり最後はい草の畳をお勧めしたいですね。先ほども多くの効果があることをお伝えしましたが、私たちの説明を聞いてもらえれば、良さもわかってもらえると思うのです。さらに、作業工程も含めて知ってもらうことで、畳の奥行きの深さやどれだけの方々が関わって畳一枚が出来上がるのかも、認識してもらえます。ご依頼先もそうですが、周知することで今後の発展に繋げていきたいというビジョンを描いています。

そのための活動の一つとして、ワークショップなども機会がある毎に開催していますし、今後も行っていきたいと思っています。ワークショップでは、様々な小物を作ってきました。端材でつくるため、数には限りがありますが、コースターなどは、人気がありますね。

また、来年2月に品評会・体験会が熊本であります。毎年行われているのですが、私は、今回初めて行ってみようと思っています。父は何回も行っているのですが、私は初めてで、実際い草を栽培している現場に行って、その時できることを体験してみるとまた違った思い入れも出てくると思います。農家さんとのつながりも大切にして、これからの畳業界を全体で盛り上げていけたらいいなと思っています。

三代続くこの北島畳店を取材しながら、畳に対する愛着をものすごく感じさせられます。そして、宏治さんが「伝える」ということを意識されていたように、言葉や知識として伝え、さらに伝統文化として後世へと伝え続けていくべき、産業でもあると実感しました。

平安時代から続く畳文化は、私たち日本人の生活の一部に溶け込んできました。自然と共生してきた暮らしを見つめ直し、よき伝統である畳文化をリンリプロジェクトは応援していきます!