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「化石を通して甑島の魅力を未来へつなぐ」甑ミュージアム

鹿児島県薩摩半島から西へ約30キロに位置し、東シナ海に浮かぶ「甑島」。

2008年に獣脚類恐竜の歯と肋骨が見つかって以来、様々な恐竜の化石が見つかるようになった。2016年にはハドロサウルス類の大腿骨も見つかっている。

2015年に甑ミュージアムの前身となる甑ミュージアム恐竜化石等準備室が設けられて以降10年間の下積みの上に、2025年4月1日、遂に甑ミュージアムがオープンとなった。甑島で採集された1000点を超える化石や岩石などが展示され、甑島の新たな観光スポットとしても期待されている。

今回はオープンに向けて研究と準備を進めてきた学芸員のお二人にお話を伺いました。

 

学芸員
山下大輔さん

 

学芸員
石川弘樹さん

 

 

ご質問① 甑ミュージアムの魅力について教えてください。

 

山下さん

島の博物館ということで、甑島産の標本を使い、化石や岩石を通して島の大地の歴史がわかるところが魅力だと思っています。この島には恐竜が栄えた最後の時代約8000〜7000万年前の地層と、哺乳類が栄え始めた5000万年前頃の地層があり、その両方の時代の化石が見つかっています。

また、地域住民の方々が採集した標本をミュージアムに提供して下さったり、また子どもたちが採集した貝殻などを展示するなど“みんなでつくるミュージアム”となっていることも魅力の一つです。

 

▲発掘体験に参加した子どもたちが採集した貝殻も丁寧に展示されています。

 

石川さん

私はオープン一ヶ月前の3月に、国立科学博物館から、こちらの甑ミュージアムに移りました。オープンを直前にして着任したわけですが、甑ミュージアムの特徴的なところは、ここまで博物館活動に地元住民の方々が関わっておられる点だと思っています。博物館の展示制作は、私たち学芸員が手作りで準備し、そこに地元の方々の協力をいただいて成り立っていることは、全国的に見ても珍しいのではないかと思います。

 

▲2階常設室では約1億年前から現在まで時代を追って化石や岩石などが展示されています。
手前は海生ワニ類のテルミノナリスの骨格標本です。

 

ご質問② オープンに向けて工夫されたことはどんなことですか。

 

山下さん

ミュージアム内をご覧いただく際に、今、どの世界を見ているのかをわかりやすいようにゾーン分けをしています。海と陸の生物両方の化石が見つかるため、海の世界と陸の世界をゾーン分けし、色分けをして展示しています。

 

石川さん

自分たちで一から十まで全部作れる点が大きく、最新の発見や研究成果を展示に反映させ、随時更新したり、適宜企画したりすることができるので、実験的な側面を取り入れました。

 

▲海と陸、それぞれで発見された化石がわかりやすく展示されています。

 

ご質問③ 地域住民の方々が協力的なのはなぜですか。

 

山下さん

当ミュージアムの前身である準備室が設けられた当初は、化石発掘に対して批判のお声もありました。そこで、準備室発足当時、学芸員だった三宅優佳さんは「化石だより」(現在の「甑ミュージアムだより」)という広報誌を地域に配付し、当ミュージアムがどんなことをしているのか、子どもたちがイベントどのような活動をしているのかを発信することにしました。徐々に地元の方々にも博物館活動に対する理解を深めていただくことができ、今の体制を整えることができました。

今では、調査に行く際も地元の方々が船を出して下さったり、ご飯を準備して下さったり、それに発掘作業にまで協力して下さるので、本当に支えられています。

ちなみに、三宅優佳さんは、2009年から甑島での研究をスタートさせ、地元の方々との交流を深めて、2015年から着任されてミュージアムのオープンに向けて、大変尽力されていました。

 

ご質問④ 化石を通して子どもたちに何を伝えていきたいですか。

 

山下さん

二つあります。一つは、こんなにたくさん化石が発見される魅力的な場所なんだと気づいてもらいたいということ。もう一つは、古生物学や地質学では、何億年も前の昔のことも扱うので、そのスケール感に触れてもらうことで、日常の些細な悩みなど忘れて大きなスケール感で生きてほしいということです。

また、化石プログラム(化石や甑島にまつわる内容を楽しみながら学べる教室)を毎月第3土曜日に開催しており、実際に体験してもらうことで地元の魅力に気づいてもらうと共に、化石や恐竜の歴史に興味を持ってもらえるよう、継続的に取り組んでいるところです。

 

石川さん

スケール感で言うと、時間もありますが、地理的な面もあると思っています。甑島は日本の中で特異な位置で、恐竜時代にはアジア大陸と繋がっていて、さらにアジア大陸はアメリカ大陸と繋がっていました。つまりアメリカの恐竜がアジアに入ってきて、甑島にいたということになります。非常に大きいスケールで物事が動いているので、そういうことを感じてもらえると子どもたちにとっても面白いのではないかと考えています。

地元の子どもたちは、地元で化石がよく発見されるので身近に感じていて当たり前になってきている風潮がありますが、地元の魅力を再発見してもらえたらと感じています。また、離島留学で来ている子どもたちは化石を珍しがるので、ここでしか見られない化石を見てもらうことで、甑島の魅力を感じてもらえたらと思っています。

 

▲発掘体験で発見された化石も展示されています。

 

ご質問⑤ 来館された方々からどのような感想が寄せられていますか。

 

山下さん

「よくこんなに沢山集めたね」「ここのミュージアムは地元で発掘されたものが多くていいね」「ほとんど甑島のものだよね」と驚きと期待のお声をいただいています。

それに、表示しているラベルもよくご覧になられて、お知り合いの方が発見者のケースもあるので、ラベルの名前を見て、身近な地元の標本だとわかって嬉しい表情を浮かべて下さる方が多くいらっしゃいます。

 


▲一つ一つの展示物をわかりやすく伝えて下さる山下さん。

 

ご質問⑥ 今後、甑ミュージアムを発展させていくために取り組みたいことはどんなことですか。

 

山下さん

九州本土で恐竜をテーマにした博物館が増えてきているので、協力して博物館活動や研究を進めていきたいと思っています。

 

石川さん

4月1日のオープンをもって一通り形づくられましたが、そこで固定化されてしまうと勿体無いと思っています。せっかく自分たちで手を加えていける環境があるので、地元住民の方々や子どもたちと協力して、新たな企画展示の制作も進めていけたらと思っています。

 


▲2016年に発見されたハドロサウルス類の大腿骨。

 

▲1階に展示されているサウロロフスの骨格標本は全長10mで迫力があります!

 

▲館内では化石クリーニングの様子もガラス越しにご覧いただけます。

 

地元を愛する地域住民の方々と一緒に、甑ミュージアムを形作ってこられた学芸員さんのお話を伺い、化石が語る甑島の歴史の数々に、世界観を広げてもらえたひと時でした。今も続々と甑島産の化石が発掘されているとのことで、ますます期待感が膨らみます。

甑島に行かれる際には、ぜひ甑ミュージアムにお立ち寄りいただいて、太古の世界を味わいながら化石を通して甑島の魅力を感じてみてくださいね!

私たちRINRI PROJECTは、これからも甑ミュージアムを応援していきます!

 

【甑ミュージアムHP】https://www.city.satsumasendai.lg.jp/koshikimuseum/
【インスタグラム」  https://www.instagram.com/koshikishimatourism/